大山の天狗
むかし、大山のふもとの村にきこりがおった。ある日、山に入って木を切っていたら、木のそばに天狗が出てきて、きこりの仕事をじっと見ていた。
きこりは「これが大山の天狗か。話には聞いたが見るのは初めてだ。何とか生け捕りできんもんだらあか」と考えながら何くわぬ顔で仕事をしていると、天狗は「お前は今、わしを生け捕りしよう、と思うとるだろう」と心の中を見透かすように言った。
木こりがいろいろ心の中で思うことを天狗がすぐに当ててしまうので、きこりは驚き、天狗には人間の心の動きがみな解ってしまうことを知って、それから後は無心に木を切っていた。天狗も面白そうに仕事を見ていたが、きこりが切った木っぱが飛び散って、思いがけず天狗の自慢の鼻に当たった。今度は天狗が仰天して、「いやぁ、人間は心で考えんことをしてみせるけんきょとゃ」と言って山の中へ逃げ帰ったという。
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